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高松地方裁判所丸亀支部 昭和53年(ワ)69号 判決

原告

成行登

ほか一名

被告

金丸正俊

ほか一名

主文

原告らの各請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

原告ら訴訟代理人は、「被告らは、連帯して、原告らに対し、各金三七二万六一五〇円及びこれに対する昭和五〇年一一月二四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被告ら訴訟代理人は、主文同旨の判決を求めた。

(原告らの請求原因)

一  事故の発生

被告木村は、昭和五〇年一一月二四日午前一一時四〇分ころ、普通乗用自動車を運転して香川県三豊郡高瀬町大字上高瀬一九五四番地付近の道路(幅員約五・五メートル)を時速約六二キロメートルで進行したが、同所は道幅が狭く、両側には人家が立ち並び、道路上をいつ人が横断するかも知れないのであるから、十分に減速しかつ前方を注視して進行すべき義務があるのにこれを怠り、漫然同一速度で運行を継続した過失により、前方二七・九メートルの地点に道路横断中の成行由三子(当時約四歳)を認めるや、急停車の措置を講じたが間に合わず、同女に自車を衝突させて間もなく同女を死亡するに至らしめた。被告金丸は、被告木村運転の車両の保有者である。すると、被告らは、連帯して、被害者由三子の父母である原告らに対し、本件事故により蒙つた損害を賠償すべき義務がある。

二  原告らの損害

1  被害者由三子の慰謝料 金八〇〇万円

2  同女の逸失利益 金九五八万六〇〇〇円

年収九九万二三〇〇円(昭和五〇年賃金センサス第一巻第二表新高卒一八歳―一九歳女子労働者平均給与額)、生活費年間四五万円、就労可能年数四九年(一八歳から六七歳まで)とし、新ホフマン方式により中間利息を控除すれば、被害者由三子(四歳)の逸失利益は、次のとおり金九五八万六〇〇〇円(一〇〇〇円未満切捨)となる。

(992,300円-450,000円)×(28.086-10.409)=9,586,237円

3  原告らの慰藉料 各金一五〇万円

4  損害の填補 金一三一三万三七〇〇円

原告らは、被害者由三子の死亡による相続の開始により、1、2の損害合計一七五八万六〇〇〇円の賠償請求権を各自の相続分に応じ取得したが、被告木村から金一〇〇万円、自賠責保険から金一二一三万三七〇〇円、合計一三一三万三七〇〇円の給付を受領したので、これを以上の損害から控除すれば、損害残額は原告らにつき各金三七二万六一五〇円となる。

三  よつて、原告らは、被告らに対し、各金三七二万六一五〇円及びこれに対する損害発生の日である昭和五〇年一一月二四日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。

(被告らの答弁)

一  原告ら主張事実中、被告木村運転の車両が原告ら主張の日にその主張の場所で成行由三子に衝突し、同女がこの事故により死亡したこと、原告らが同女の父母であり、右事故による損害の填補としてその主張通りの給付を受領したことは認めるが、その余の原告ら主張事実はこれを争う。

二  被告木村の過失について

本件事故は、被害者由三子が駐車中の自動車の陰から突然飛び出し道路を横断しようとしたため発生したもので、同女を監護すべき義務がある原告らの不注意に基因する事故である。被告木村は、当時前方を注視して車両を運転し、被害者由三子の飛び出しを認めるや、直ちに急停車の措置を講じたが、すでに回避不可能な距離内にあつたため、同女との衝突を避けることができず、その際被告木村としては、同女の飛び出しを予見することはもとより、発見後同女との衝突を回避することもまた不可能な状態であつたから、同被告に何ら過失の責任はない。仮に被告木村に過失があつたとしても、原告らの前記過失がむしろ重大であるから、損害賠償の額を定めるにつき被害者側の過失割合を六割以上と認めるべきである。

三  加害車両の保有者について

被告金丸は、昭和五〇年一〇月ころ原告ら主張の加害自動車の所有権を訴外木村京子に譲渡したから、その保有者ではなく、本件事故につき運行供用者としての責任を負わない。

(証拠)

原告ら訴訟代理人は、甲第一号証(写)、第二ないし第四号証を提出し、原告成行登、同成行則子、被告金丸正俊各本人尋問の結果を援用し、乙第一号証の一ないし三、一一の各成立を認め、乙第一号証の四ないし一〇、一二ないし一四がいずれも被告ら主張のごとき写真であることを認め、乙第二号証の原本の存在及びその成立を認めると述べた。

被告ら訴訟代理人は、乙第一号証の一ないし一四(うち四ないし一〇は昭和五〇年一一月二四日本件事故現場等を撮影した実況見分調書添付写真、うち一二ないし一四は同日被害者成行由三子の遺体を撮影した写真)、第二号証(写)を提出し、証人木村京子の証言、被告木村功、同金丸正俊各本人尋問の結果を援用し、甲第一号証の原本の存在及びその成立を認め、その余の甲号各証の成立を認めると述べた。

理由

(本件事故の発生及びその責任について)

被告木村が、昭和五〇年一一月二四日普通乗用自動車を運転し、香川県三豊郡高瀬町大字上高瀬一九五四番地付近の道路を進行中、成行由三子(原告らの子)に衝突し、同女がこの事故により死亡するに至つたことは当事者間に争いがない。

被告木村の過失について

成立に争いのない甲第二、第四号証、乙第一号証の一ないし三、昭和五〇年一一月二四日撮影の本件事故現場等の写真であることに争いのない乙第一号証の四ないし一〇に証人木村京子の証言、被告木村功本人尋問の結果を総合して考察すれば、被告木村は、同日午前一一時四〇分ころ前記車両を時速約五五キロメートルで運転し、前記場所に差しかかつたが、同所はその両側に人家が立ち並び、道幅が狭く(約五・五メートル)、しかも進路前方右側にはおりから軽乗用車一台が駐車しており、その背後やまた付近では人の出入りが予想されるのであるから、あらかじめ減速して進行し事故を未然に防止すべきであるのにこれを怠り、漫然同一速度で進行を継続した過失により、前方約二七・四メートルの地点に右軽乗用車のうしろを抜けて道路横断中の成行由三子(当時三歳)を目撃するや、直ちに急停車の措置を講じたが間に合わず、同女に自車を衝突させて間もなく同女を背部打撲に基づく内臓破裂により死亡するに至らしめたことが認められる。すると、被告木村は本件事故につき過失の責任を免れない。

加害車両の保有者について

成立に争いのない甲第三号証、原本の存在及びその成立に争いのない乙第二号証、証人木村京子の証言、被告金丸正俊本人尋問の結果によれば、なるほど、被告金丸は、被告木村運転の前記加害車両を所有していたが、昭和五〇年一〇月三一日ころ右車両を自己の妹である木村京子に贈与したこと、そして、本件事故は、被告木村がドライブの帰途婚約者である同女に代わり右車両を運転中惹起した事故であること、しかし、木村京子は、当時兄である被告金丸と同じ家に住み、かつ現在に至るまで同被告から右車両の移転登録を受けていないことが明らかである。兄が妹に自動車を贈与しても、その移転登録を経由せず、兄妹がいぜん同じ家のなかで生活している限り、兄はいつでも右自動車を自己のために運行の用に供することができ、いまだその運行支配、運行利益を喪失していたものとはいえない。してみると、被告金丸は、本件事故につき運行供用者としての責任を免れない。

(原告らの損害について)

1  被害者由三子の慰藉料 金一五〇万円

被害者の年齢(当時三歳)その他本件弁論にあらわれた一切の事情を考慮し右金額をもつて相当と認める。

2  同女の逸失利益 金八六〇万五一二六円

年収九九万二三〇〇円(昭和五〇年賃金センサス第一巻第二表新高卒一八歳―一九歳女子労働者平均給与額)、生活費五〇パーセント、就労可能年数四九年(一八歳から六七歳まで)とし、新ホフマン方式により中間利息を控除すれば、被害者由三子(三歳)の逸失利益は、次のとおり金八六〇万五一二六円となる。

992,300円×0.5×(28.3246-10.9808)=8,605,126円

3  原告らの慰藉料 各金三〇〇万円

原告らの精神的苦痛に対する慰藉料は、本件事故の態様、被害者由三子の慰藉料の額その他各般の事情を考慮し、原告らにつき各金三〇〇万円とする。

4  過失相殺 二割

前顕乙第一号証の一ないし一〇、原告成行登、同成行則子、被告木村功各本人尋問の結果によれば、本件はいわゆる幼児の飛び出し事故であり、原告らは、いずれも本件事故直前、被害者由三子とともに道路沿いの納屋にいながら、同女がひとりで危険な道路に出たのに気付かず、同女の監護者として、明らかにその指導監督上の義務を怠つた過失があるものと認められるから、原告ら被害者側の過失割合を二割と定める。

5  損害の填補 金一三一三万三七〇〇円

原告らは、被害者由三子の死亡による相続の開始により、1、2の損害合計一〇一〇万五一二六円の賠償請求権を各自の相続分に応じ取得したので、原告らの損害は、3の慰藉料を加算すれば、結局原告らにつき各金八〇五万二五六三円となるが、前記過失を斟酌し過失相殺をしたうえ、原告らにおいて受領したことを認める給付一三一三万三七〇〇円を控除すれば、被告らの賠償すべき原告らの損害はないこととなる(計算関係は別紙のとおり)。

よつて、原告らの本訴請求はいずれも失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 古市清)

損害内訳

〈省略〉

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